「この絵は、2011年3月11日に発生した東日本大震災を起因とする福島第一原子力発電所事故を受けて同年8月から描きはじめました」と語る壷井さんの「無主物」展。2013年からこの時期に壷井さんの絵をテトラで展示しており、今年もその時期がやってきました。11日、12日、13日それぞれご本人のトークイベントを開催いたします。上にも書いたけれども、カンパをお願いします!(テトラ担当:森)。以下の文章は壷井さんからです。
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「―町外の人は、まして東京の人からは、どんなふうに楢葉町のことを見てんの?」
昨年2015年8月28日。
福島県いわき市にある仮設住宅で聞かれた。ある女性に聞かれた。
それから間もない9月5日に、国は楢葉町の居住制限を解除する予定で、この決定を受けて住民は実際どう行動するつもりなのか、自分は確認したくなり、一人元は公園内のサッカー場だったその窪地を訪れたのだった。
原発からおよそ20㌔から30㌔にあたる楢葉町は、事故後2011年3月12日午後から避難指示を受けいわき市の各所へ移動(ここにも相当の労苦があった)、それから仮設住宅へ移り住むことになった。
毎週金曜日の午後、その仮設住宅群に住まう人間たちはささやかな茶話会の場を設ける。そのことは知らずに訪れた自分は14,5人が茶菓子を囲んで雑談に興じる席に招きいれられることになった。
事故後、間もなく5年―。
中年の男女たちの会話のトーンは軽い笑いの色を帯びている。
この五年近くの間に、その同じ形をした『仮』のものとされた住み家(阪神淡路で使用された仮設住宅を移築した)の住人たちの間には、事故がなければおそらく存在しなかった結びつきが生まれていた。
戻るのか。
この自分の問いに彼らが口にしたのは、その一月前に関西で発生していた殺人事件のことだった。こどもを殺傷した犯人は、二本松で除染作業員として働いていたという。その事件のことは東京に住む自分の元にもテレビを通じて報道されていた。そのことを、不安として口にする。
そしてそれらの不安を言葉にしても取り上げてくれない民報テレビ局への醸成されてしまった根深い不信。
避難指示は解除になったが、楢葉には依然としてスーパーも病院も存在しない。住民が土地を離れて代わりに入って来たのは原発関連および除染関連の会社、および、人間たち。
「どうせ帰んならば、みんな”一斉に”帰らねえと。みんな一斉に帰れば、『あ、あのひとがおかしい』『このひとが』ってこうなる。いま、ぽつん、ぽつん、と帰って来たって、、。」
国の避難指示解除とは別に、帰町宣言というものがある。
町全体町民全体で帰る、その意思表明だ。現在の状況は、この帰町宣言を先取りするかたちで避難指示が解除された、という構図になる。したがって、帰る人間はいるが、彼らはひと気のない場所で孤立することになる。
かつて、楢葉町をはじめとした原発近接圏双相地区は『東北のチベット』と呼ばれていたのだという。はじめてその仮設に訪れた時にある男が話していた。
住民たちが現在住むいわき市には街がある。スーパーがある。病院がある。
そして同じ境遇の人間が身近にいる。
彼らの結びつきは、運ばれてきた目が萌芽するように新しい土地に根を張り、息づき始めている。
ただし、地元の市民との交流はないという。
『10-13-23-15-19』
2011年から認定された震災関連死のうちの、福島県内における自殺者数(内閣府自殺対策推進室公表)。
あらゆる意味を包含していた『土地』を喪ったために命を絶った構図は、これからはそこへ『戻される』がゆえに生じる可能性をはらんでいる。
どこへ、むかうのか。
今回の展示は、3.11の諸問題を描いた連作『無主物』の現在制作進行中の5点の原画を展示します。
福岡へ参りますので、直接的なやりとりができればいいと思います。
壷井明略歴
1976年東京都広尾生まれ。
慶応義塾大学文学部文学科ドイツ文学科卒業。
幼少期を福島県会津喜多方市にて過ごす。
2003年から活動を開始。
スプレーで公共物に描くうち捕縛。
油絵に移行する。
現代社会のイコンをテーマに作品を制作し続ける。
2005年から年二回のペースで東京下北沢本多劇場系列ギャラリーGekiを拠点に絵を見せる。
2013年2月1日から4月14日丸木美術館にて「無主物」招待展示。
壷井明web http://dennou.velvet.jp/index.html
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対談者略歴
安田哲(やすだ・さとる)
1984年東京生まれ。三軒茶屋映像カーニバル、8ミリ軍団魑魅魍魎(東京都杉並区高円寺小杉湯)、イメージフォーラムフェスティバル、Toronto Reel Asian International Film Festival、群馬青年ビエンナーレ、渋谷クライエ(東京都渋谷区宮益ビル)など国内外で上映・展示多数。
森元斎(もり・もとなお)
1983年東京生まれ。専攻は哲学・思想史。大学非常勤講師。art space tetraメンバー。単著に『具体性の哲学』(以文社)、共著に『「はだしのゲン」を読む』(河出書房新社)など。
谷瀬未紀(たにせ・みき)
1968年生まれ。福岡県北九州市で1990年より舞台制作に関わる。1993年「北九州演劇祭」立ち上げ。2010年、放射能や世界の疵をめぐる一人芝居『ホシハ チカニ オドル』制作。以来公演メンバーとして全国巡演中。2004年よりホームレス支援炊き出しに参加。2006年より「NPO法人 北九州ホームレス支援機構(現「抱樸」)」の正会員。011年の東日本大震災を受け、同NPO「被災地支援対策本部」、のち北九州市と協働での避難者受け入れ支援「絆プロジェクト北九州」で福島からの避難者の受けいれ、移住者の生活支援を行う。2012年、「311受入全国協議会(うけいれ全国)」の設立に参加、2014年7月より同協議会の共同代表。非営利団体「子ども被災者支援基金」2015年度監事。